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【第4回】「Segmentation」はマーケティングセンスが問われる / 講師 後藤直哉
みなさん、こんにちは、株式会社mekesの後藤です。第4回となる今回の講義は、マーケティングセンスが問われる「Segmentation」について解説させていただきます。
「Segmentation」とは
R-STPのうち、最もわかりにくいのがこの「Segmentation」です。最近は、「ターゲットを絞り込む」「メインターゲットは〇〇で、サブターゲットは△△で」などの会話をよく耳にします。
また、自治体などが公示する事業の仕様書でも、ターゲットについては必ずと言って良いほど明示されています。ターゲットが絞り込まれていなければポジショニング戦略も立てることが出来ず、テーマやコンセプトも不明瞭となってしまうため、当然といえば当然でしょう。
では、これら明示されているターゲットはどのようなプロセスを経て設定されたのでしょうか?
マーケティングの基本は意図したことを計画どおりに検証可能な方法で実行し、事後検証を繰り返しながら改善を行うPDCAのサイクルが重要であることはすでに第2回で述べた通りです。

この基本に、忠実になればなるほど様々なマーケティング業務が数値化され、科学的に物事を進めていく必要性が出てきます。
広告の世界では比較的早くから広告効果の数値化を行ってきましたが、最近ではBtoBの分野でも数値化による分析が進んでいます。
例えばコピー機などの営業現場では、「商談回数が何件になると受注率△%になり、営業ツールはAを用いたほうが最も販売につながりやすく、電話する時間帯は何時ころがよい」など、とにかく徹底して数値化を行っています。必ずしも最高の数値が最良のプロセスとはいえないまでも、このように数値化することで検証可能な状況にはなるのではないでしょうか。
一方、観光マーケティングの世界でも数値化による科学的な分析手法が用いられ始めています。
私自身の例で言うと、地域に対してコンサルティングを行う際、今まで数値化されてこなかった地域に対する印象などをアンケート結果から数値化し、トータル的な満足度や推奨度との重回帰分析などを行うようにしています。この分析により、どのような印象を与えることが満足度につながるのか、数値として見えるようになります。こうすることで、今まで曖昧だった取り組みを目に見える形で数値化できるので、検証可能な状態とすることが出来ます。
さて、話を本題に戻すと、タイトルで「Segmentation」はマーケティングセンスが問われると書きましたが、これは一体どういうことなのでしょう。
最近東北地域ではビッグニュースが流れました。世界のガイドブックのシェア25%を占めるといわれ、そのサイトは月間訪問者数は1420万人(2016年調べ)という、旅行者に最も影響を与える旅行ガイドメディア「ロンリープラネット」が、2020年に行くべき観光地の3位に東北地域を選びました。
ロンリープラネット「Best in Travel 2020」(地域編)ランキング

「ロンリープラネット」はミシュランガイドと同様に恣意的なランキング操作が一切できない媒体として知られており、読者の信頼するガイドブックとして知られています。その「ロンリープラネット」で、2020年に行くべき観光地3位に選ばれたことは、東北にとってはビッグニュースであり、インバウンドに大きなプラスの効果を期待できる追い風であるといえます。
しかし、このような情報は業界内ではビッグニュースとして捉えられていますが、一般的にはあまり知られていません。常にしっかりとアンテナを立てているマーケッターにとっては当たり前の情報であっても、そうではないマーケッターにとっては初めて聞く話かもしれません。その場合、私たちが「ロンリープラネットの読者をターゲットに据えましょう」と話をしても、恐らく話がかみ合わないでしょう。

▲ロンリープラネットのホームページの、日本紹介コンテンツより
また、同じく東北の話になりますが、最近東北を旅行する外国人旅行者がレンタカー利用するようになってきました。1台あたりは割高でも、数人で借りると割安感が出ることと、東北は車じゃないと行けない観光地も多いためレンタカーで東北内を周遊観光するスタイルが定着し始めているようです。では私がなぜこのような情報を持っているかというと、実際に海外の旅行会社と会話する機会が多く、その都度現在のトレンドを押さえることができるように質問を繰り返しているからです。
この二つの例は、マーケッターは常にアンテナを立てる必要がある、ということを説明するために取り上げました。本稿のタイトルで記載したマーケティングセンスとは、つまり、如何にアンテナを立て続けるか、情報の鮮度を保つか、ということに尽きます。マーケッターは思い付きや勘で物事を説明してはいけませんが、そのためには常に最新の情報と接する必要があります。その不断の努力が正確に物事を判断するために必要な事であり、マーケティングセンスそのものなのです。
「ロンリープラネット」の例では、調査設計段階からこの情報を知っていれば、アンケートの設問に接触媒体として「ロンリープラネット」を加えることができ、クロス集計により読者層の傾向がデータとしてわかります。また、プロモーションの計画を作る際にも、読者層が他にどの様な媒体に接しているかがわかれば計画も立てやすくなります。レンタカーの例では、過去の訪日旅行時にレンタカーを利用した経験があるかどうかを設問に加えることで、ターゲット像が見えてきます。
情報をもとに設定した設問に加えて、当該地域に親和性のある項目を組み合わせることで、「ロンリープラネット読者層で、日本でレンタカーを利用したことがあり、自然景観を鑑賞することを好むファミリー層」と仮にターゲット像を想定することが出来ます。このような一つの塊のことをSegment(セグメント)と呼びますが、調査設計の際に、マーケッターはある程度セグメントを想定してアンケートを作らなければなりません。
ただし、私もアンケート実施後の分析過程で、想定していなかったセグメントを発見することがあります。この時は金塊を掘り当てたような高揚感があるものでが、本来は優秀なマーケッターとしては好ましくないことかもしれませんね。
調査設計時にセグメントを想定する
では、ここからは「Segmentation」を行うための具体的な手法について説明します。基本的にはアンケート項目に反映し、分析の際にセグメントの大きさを把握することになります。
セグメントの分類方法

上図はセグメントを抽出する際の基本的な考え方です。「A.接触媒体」「B.嗜好性」「C.過去の訪日時の経験」は設問に入れ込んで複数選択設問とします。ここで、それぞれ抽出したい選択肢にチェックを入れた人を絞り込み、セグメント1を抽出します。
セグメント1が出来た段階で、次に抽出したグループの属性や傾向を確認するため、集計時のクロス軸に設定し、ある程度傾向を捉えた後、ローデータを基にさらにセグメントを絞り込んでいきます。エクセルでも十分可能な作業ではありますが、統計の専門ソフトであるSPSSなどを利用してもよいでしょう。
セグメントの見方
区分したセグメントが有効であるか、という視点では、もし同様のアンケートを過去も取っていれば、経年の比較により、そのセグメントが拡大しているのか、縮小しているのかを見ることが可能です。また、他の地域のレポートなどを読み、近いセグメントの動きを把握することもできます。また、モニターツアーなどにより、セグメントが意図した反応を示すかを確認することも有効でしょう。
いずれにしても、有効なセグメントでなければ、それはターゲット候補と言うことは出来ず、単なる統計上のグループにしかなり得ないので、有効なセグメントであるかどうかを見極めるための作業は手の抜かないようにしてください。
経験と勘がものをいう
ここまでの作業で、ターゲット候補が見出されることになるのですが、各種データを用いて抽出したターゲット候補が果たして当該地域に対する誘客ターゲットとして正しいのか、ということについては、やはり経験と勘がものを言うと言わざるを得ないでしょう。
ここにきて皆さんに非科学的なことを言ってしまうのは大変気が引けるのですが、20年以上マーケティングやコンサルタント業務を担当していると、各種情報やデータに基づいて設定したターゲット候補であるにも関わらず、何とも言えない違和感を抱くセグメントが含まれていることがあります。
なぜ違和感を抱くのか、という点は説明しづらいのですが、そのようなときにはセグメントについてさらに詳しく確認するようにしています。確認にあたっては、同業者や地域の人に意見を聞くなど、自分一人の判断に委ねないようにします。
その結果、抽出しセグメントはターゲット候補になり得ないという結論になることが多々あります。理由はターゲットに据えるには小さすぎるサイズであったり、逆に世界中がライバルとなり得るターゲットであったり、当該地域には親和性の無いターゲットであったりなど様々ですが、結果的に勘が正しいことが多いのも事実です。
データを用いた分析や検証はマーケッターとして基本中の基本ですが、一方で常に自分が出した結果を疑い、結果を見直しながら、より研ぎ澄まされた分析結果を見出していく、この過程こそがマーケッターとしてセンスが問われる部分でもあります。マーケッターの基本姿勢として、検証可能な手順を踏むことに加えて、常にアンテナを立てることと、自分が行った分析を改めて疑ってみてみることを常に意識してみてください。その姿勢が、皆さんのマーケティングセンスを磨き上げます。
ではそろそろこの辺で第4回の講義は終了です。次回は「Targeting」についてです。
後藤直哉 Goto Naoya
株式会社makes代表取締役
法政大学 地域創造システム研究所 特任研究員
北海道出身。フリーのマーケティングプランナーとして独立後、2009年に株式会社makesを設立。地域における観光振興を目的とした各種プロジェクトやシティープロモーション事業など、外国人観光客を含む観光マーケティング・コンサルタントとして活動する。法政大学では、地域における観光推進組織の在り方に関する研究を行っている。