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  • shikiko7

【第6回】観光マーケティングの仕上げ「Positioning」 / 講師 後藤直哉

みなさん、こんにちは、株式会社mekesの後藤です。今回で観光マーケティング講座もいよいよ最終回です。第6回となる今回の講義は、観光マーケティングの仕上げ作業「Positioning」について解説させていただきます。


「Positioning」とは


そもそも、ポジショニングとはいったいどのような事なのでしょうか。マーケティングの権威であるF.コトラーがポジショニング戦略について下記の通り整理しています。

コトラーによる「6つのポジショニング」


ポジショニングとは、顧客の数だけ無数にあるといわれていますが、F.コトラーによればそれらを分類するとそのほとんどが6つのポジショニングのいずれかに該当するとされています。


例えば、観光マーケティングではよく耳にする「キラーコンテンツ」(観光地で目玉となる観光資源)と言われるものは、①の「特定の製品属性に基づいたポジショニング」と言えるでしょうし、様々な自治体で盛んに行われているテーマを絞った観光コンテンツ造成の政策は③の「製品が使用される機会によってのポジショニング」であると言えるでしょう。


このような分類は、実際に観光客と対峙する現場の方々はそれほど意識する必要はないかもしれませんが、観光マーケティングのプロを目指す皆さんであれば、ポジショニングの基本としてしっかり押さえておくべき知識と言えますので、頭に入れておくことをお勧めします。

具体的には、「Targeting」によりターゲットに据えた顧客に対して当該地域をどのようにPRしていくのか、実際に訪れた観光客にどのように感じてもらいたいのか、この「どのように」の部分がポジショニングであり、プロモーション計画の根幹となる部分です。

R-STPの作業で最後にポジショニングがあるのは、この「どのように」を考えるためには様々な素材を吟味しなくては正しい正解を導き出すことは出来ないためです。つまり、R-STPの最終的な仕上げがこのポジショニングに集約されることになります。


観光マーケティングにおける「Positioning」の捉え方


では、観光マーケティングにおけるポジショニングとはいったいどのように捉えるべきなのでしょうか?


製品を取扱うメーカーであればイメージもしやすいと思いますが、サービス産業である観光分野では、一言でポジショニングと言ってもなかなかイメージがしづらいというのも致し方がないと思います。そこで、私は観光資源を分析し、観光振興計画を組み立てるうえで下図のようなポジショニングマップを用いるようにしています。


下図は、縦軸が単価を表しており上に行くほど高単価、横軸が希少性で右に行くほど希少性が高いことを表しています。


例えば地域の特産品などは、その地域でしか手に入らないような希少性の高い物であっても低単価で売られていることも多々あります。また、その地域でしか見られない観光資源がある場合でも、入場料を取らない、または数百円といった値段で価格設定されている場合があります。一方原価がかかるからという理由で、地域の希少性が低い物でも高単価に設定されている特産品や観光施設も多々見られます。



これらの現象は、日本の製造業が従来から行ってきた「プロダクトアウト」(良いものは売れる)という考え方が根強く残っているために観光地でも同様の考え方になってしまうのではないだろうかと私は考えています。「プロダクトアウト」の考え方で製品やサービスを世に送り出してしまうと、いずれその商品やサービスは価格競争の波にさらされることになってしまいます。


では価格競争に巻き込まれないためにどうすべきかというと、「マーケットイン」(顧客ニーズから製品を生み出す)思考で製品やサービスを考えることが求められます。さらに、この「マーケットイン」の考え方から派生する「高付加価値化」を組み合わせていくことで、製品やサービスが「ブランド化」していくことになります。


観光マーケティングの場合、一過性のブームで観光客が訪れることになると地域に様々なひずみを生んでしまうことになりかねませんので、中長期的な視点で地域をブランディングし、意図したイメージを観光客に感じてもらうこと、その地域を知ってもらうことこそが「どのように」を具体的に対外的に示していくことにつながり、その計画づくり及び実行がポジショニング戦略の目的であると言えます。


マーケティング計画の基本「7P戦略」


R-STPの総仕上げとして、最終的なターゲットとポジショニングが定まった後、いよいよ本格的なマーケティング計画の立案となります。


R-STPはあくまでも戦略作りのための情報収集に過ぎません。これらの情報を用いて、マーケティング戦略を組み立てていくことになります。本連載は観光マーケティングの基礎講座としてR-STPの手順を皆さんにお伝えしてきましたが、最終回である本記事では、今まであまり言及してこなかった「マーケティング計画の基本」である7P戦略について、R-STPの次のステップとして少し触れたいと思います。


7P戦略とは


7P戦略とは、それぞれの頭文字をとって7Pと言われるものですが、マーケティング計画を作成する上で欠かせない要素であるため、R-STPの手順が終了した後は、必ずこの7Pの要素を整理するように心がけてください。


実際に7Pを整理していくと、今まで気が付かなったような抜け漏れを明らかにすることが出来ます。例えば、Placeを確保するために営業活動が必要であること、Personnel / Peopleを高めるために研修が必要であることなど、関係者との調整も必要になってくることがわかります。


地域の観光振興を行ううえで何が足りていないのか、今後何を行わなくてはいけないのか、これらの取組項目を整理するためにとても有効な7P戦略をぜひ使いこなしてください。


最後に:観光マーケティングに従事する責任


ここまで全6回にわたり、観光マーケティングの基礎について皆さんに説明させていただきました。


観光とは、具体的に目に見えない便益を提供するサービス財という側面が大きいため、過去の経験や勘に頼ってしまうことが多く、その結果科学的な手法を用いて観光振興計画を組み立てるといった思考があまり広まっていないという現実があります。


しかし、本来であれば多様な関係者が関わりながら成り立つ観光産業こそ科学的な手法を用いて計画を組み立てていくことが求められますし、観光客の様相が激変している現在において過去の経験に基づいた特定の「声が大きい」人の意向で地域の観光を推し進めていくことは非常に危険なことであると言えます。


本連載をご覧になった皆さんが、少しでも観光を科学することの必要性と意義について理解していただき、マーケティングの醍醐味を感じていただければと願っております。

さらに観光とは、地域の資源を活用し、消費するものでもあります。


「持続可能な社会(サスティナビリティ)」というワードは皆さんも一度は耳にしたことがあるのではないかと思いますが、観光でも同じようなことが言えます。


つまり言い換えれば、私たち観光マーケッターは「持続可能な観光」を目指すために地域をどうすべきなのか、それを科学的な手法を用いて地域の皆さんへ示していく責任があります。


私たちが今観光という産業に従事できているのは、地域の観光資源が守られてきたからであり、私たちはそれを未来へ繋いでいく使命があります。一過性の成果を求めて、今まで守ってきた地域の観光資源を壊してしまっては本末転倒でありますし、「持続可能な観光」とは程遠くなってしまいます。


しかし、皆さんの周りを見渡してみてください、そのような取り組みが日本全国各地で行われてはいないでしょうか?具体的な事例をここで明示することは避けますが、今まで地域の方々が守ってきた地域の文化や自然を間違った方向で活用することにより、「持続可能な観光」とは真逆の、観光資源の浪費が加速的に進んでいるのではないでしょうか。


私が観光マーケティングに従事し、地域の方々に常に伝えているのは、「資源を浪費してはいけない、永続させるものである」、「私たちは偶然今の時代を生きている、先人の取り組みに敬意をはらいつつ、未来につなげるのが私たちの責任」であるという考え方です。

観光マーケティングに従事する者は、地域へ誘客を図ることはもちろんですが、常に「持続可能な観光」を念頭に入れながら、地域の方々に対してこの考え方を伝えていく船頭であることを意識するべきなのです。


観光すなわち旅は、人類誕生から一貫して行われてきた人の本能とも言える行為です。人の移動は常に旅人と地域に新しい発見と驚きを与えます。観光マーケッターは、人の本能と向き合う仕事です。観光マーケッターとして、旅を考え、地域の文化に敬意を払い、旅人と地域を繋ぐ翻訳者としての役割を果たしていきましょう。


以上のメッセージを皆さんへお示しし、観光マーケティング基礎講座最終回を締めくくりたいと思います。

 

後藤直哉 Goto Naoya

株式会社makes代表取締役

法政大学 地域創造システム研究所 特任研究員

北海道出身。フリーのマーケティングプランナーとして独立後、2009年に株式会社makesを設立。地域における観光振興を目的とした各種プロジェクトやシティープロモーション事業など、外国人観光客を含む観光マーケティング・コンサルタントとして活動する。法政大学では、地域における観光推進組織の在り方に関する研究を行っている。


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