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【第2回】自社多言語サイトの中国語版の制作に際し、最初に確認すべきポイント / 講師 萩本良秀
こんにちは。連載第2回では、台湾人旅行者向けの自社サイトの中国語版を作る際の留意点について話していきます。まず、台湾人旅行者向けの中国語サイトを作るにあたり、以下の3つを基本的な重要なポイントとして挙げたいと思います。
言語は中国語(繁体字)で制作する
スマートフォン表示対応をする
台湾人向けのコンテンツがあるか確認する
1.言語は中国語(繁体字)で制作する
まず1の言語ですが、中国語には中国本土で使われる簡体字(Simplified Chinese)と、台湾や香港で使われる繁体字(Traditional Chinese)の2種類の文字体系があります。
以前、台湾ツーリズムの関係者が「台湾での旅行博に簡体字パンフレットを持ってくる日本の自治体がいるが、これでは台湾人旅行者を歓迎しているとは、とても相手に伝わらない」と話していたことがあります。

▲「いらっしゃいませ」の簡体字(左)と繁体字(右)表記
「Webサイトを作る際に、中国語をひとつに集約したい場合はどちらを選べばいいか?」と私も質問を受けたことがありますが、「貴社のビジネスが中国人と同時に台湾や香港からの旅行者も対象にしている場合は、簡体字と繁体字の両方必要です」というのが答えになります。
2.スマートフォン表示対応をする
2のスマートフォン対応についてですが、観光庁の「訪日外国人消費動向調査」によると、「日本滞在中に得た旅行情報で役に立ったもの」の1位は交通手段 (52.3%)、2位 飲食店 (37.1%)、3位 観光施設 (31.4%)、4位 宿泊施設 (34.0%) となっています(2019年1-3月期調査)。
日本滞在中に得た旅行情報で役に立ったもの(全国籍・地域、複数回答)

ツアーや航空券など旅マエに申し込む際はパソコンでも、旅ナカの調べ物はスマートフォンで、が主流です。台湾人の間でも最も使われている検索エンジンのGoogleはモバイル・ファースト・インデックスという方針を取っており、スマートフォンでの検索にはスマートフォン対応しているページを優先的に表示します。お店はもちろんホテルまでも来日後の旅ナカで探しているという訪日旅行者の行動から、日本語サイトでは対応済の方も多いと思いますが、中国語サイトもレスポンシブルデザイン(※)でスマートフォンでの閲覧に対応にしていくことは必須です。
※レスポンシブルデザイン…PC・スマホ・タブレットなどデバイスに関係なく、画面サイズに合わせてページを表示する技術
A.日本語サイトとは別に、中国語繁体字サイトを新たに立ち上げる
新たに中国語ページを作る場合は、台湾人向けに特化した売れ筋商品やメニューなど、ある程度情報を絞り込んでコンテンツを作れるメリットがあります。
このやり方の場合、KDDIウェブコミュニケーションズの「Jimdo」やイスラエルの「Wix.com」といった外部のWebサイト制作プラットフォームを利用することで、現在の日本語サイトに左右されず、まったく別環境で外国語サイトを作るというやり方もあります。
その場合は、新たに別途作ったサイトURLに現在日本語サイトでも使用している自社の独自ドメインを使うことができる有料プランを選ぶことをおすすめします。

▲ 日本旅行情報サイト「旅色」日本版(左)と台湾版(右)
B.日本語自社サイトを活用して中国語版サイトをつくる
「日本語サイトを多言語化」は、すでにあるコンテンツを利用できるので、たくさんの商品紹介など大量のコンテンツが掲載されている場合はそれをそのまま活用できる、というメリットがあります。
この場合、日本語サイトと同じ開発会社、同じ環境で多言語版を開発してもらい、コンテンツも日本語原稿に対して繁体字の翻訳分を用意する必要があります。原稿は台湾人のネイティブライターに書いてもらい、入稿するのが最も確実に自社の魅力が伝わる方法です。
最近では、日本語サイトを自動翻訳する「Transer.com」や「WOVN.io」といったサービスもあります。公開後は月々の利用料がかかりますが、立ち上げの際の時間と費用を節約できるというメリットがあります。こういったサービスでは、自動翻訳で不適切に変換される単語(例:「Apple」はブランド名なので「蘋果」と訳さずそのまま使いたい)を手作業でユーザー辞書登録して、より的確で精度の高い翻訳文を完成度させることが可能になってきています。
一方、日本語サイトを多言語化するデメリットは、コンテンツが日本語と共通になるので、台湾人向けに特化した情報を機動的に載せにくいことです。
日本語版を多言語化したある量販店のサイトを見た際に、「電子マネーポイントプレゼント」「駐車場無料」「ゴルフクラブ高価買取」といった、日本人だけに訴求して外国人にはあまり関係なさそなうバナーが、しかも日本語のまま、出ていたことがあります。また、全国にたくさんのお店を持つチェーン店の場合、店舗情報ページが関東甲信越や近畿といった広域で分類され、一覧が北海道から始まるといった、銀座や難波のお店に行きたい外国人には探しにくいページになっている例も見かけます。
すでに日本語サイトのコンテンツが豊富で、インバウンド集客を重視して予算がある企業の場合は、Bの既存サイトのコンテンツ資産を活用して多言語版を制作することができますが、「お店に外国人が集まりはじめているので、急ぎで最小限の人気メニューや営業時間などを掲載したい」といった場合は、Aの方法で単独で立ち上げてみるのもいいでしょう。その際、将来的にサイトの規模を拡大リニューアルする際、URLが引き継げるように、ドメインを自社のものにしておくことを、あらためて忘れないようにしてください。
萩本良秀 Hagimoto Yoshihide
DeepJapan エグゼクティブ・ディレクター
リクルート『ISIZEじゃらん (現じゃらんnet)』『じゃらんガイドブック』編集長、ぴあ『@ぴあ』編集長、ヤフー『Yahoo!ニュース』プロデューサーなどを経て、2013年より数百人の日本在住多国籍メンバーが日本旅行のアドバイスを投稿するサイト「DeepJapan」エグゼクティブ・ディレクターに就任。ほかに関東観光広域連携事業推進協議会メディア・ディレクター、全国通訳案内士 (英語)、国内旅行業務取扱管理者、山梨県観光部公認やまなし大使もつとめる。