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  • shikiko7

「台湾にはない、日本だけのもの」を、きめ細やかな情報とサービスで楽しみたいんです / 【第1回】 賀来宗明

日本と台湾をつなぐ架け橋として、日本に住み、活躍する各界の台湾人に、「台湾人が喜ぶ日本観光」について語っていただくインタビュー連載。第1回は、政財界・スポーツ界・芸能界の大物が主治医と慕う、医師の賀来宗明氏です。


賀来宗明 Kaku Muneaki

医療法人社団 鳳凰会

フェニックス メディカル クリニック理事長・院長


1957年、台湾台南市生まれ。医師である父の命により、16歳で単身来日した。日本で医学部に進学後、ハーバード大学、オックスフォード大学への留学等を経て、’84年に東京大学医学部附属病院にて診療・研究につとめる。’92年東京大学医学博士学位を取得後、’94年に病院を開院。80坪からはじまったクリニックは、今では東京都渋谷区に4つ、熊本市に1つの拠点を構え、年間15万以上の症例を診察するほどに成長。賀来氏は石原慎太郎氏、王貞治氏をはじめ、政財界・芸能界・スポーツ界など数多くの著名人から主治医として慕われている。画才もあり、クリニックには自らの油彩が数多く飾られている。写真に映るのも、パリを描いた作品のひとつ。

台湾人が喜ぶ観光地は、日本人の思い描く代表的な観光地とは違う


――台湾の方は日本観光が大好きでリピーターも多いですよね。日本人の頭に浮かぶ有名な観光地と、台湾の方たちが好きな場所に、違いはあるのでしょうか?


賀来宗明(以下、賀来):台湾人にとって日本観光は非常に身近なもので、全人口の4~5人に一人は日本へ旅行に来たことがあると思います。ですから、私自身は台湾の友人たちに定番観光地を勧めることはありませんね。先にネガティブな部分を話してしまいますが、外国人観光客が多すぎて日本らしさが消えてしまった場所は、もう台湾人はつまらないと感じています。



すすめると絶対失敗するのは、東京の銀座です。今の銀座は爆買いの外国人観光客だらけで、うるさくて仕方ない。浅草の雷門だって1回行けば十分で、やはり外国人が多すぎる。京都も、最近はもうすすめられなくなってしまいました。体験用の安っぽい着物をだらしなく着た外国人が大騒ぎしながら歩いているようじゃ、京都の風情なんて感じられませんからね。


――日本をよく知っている台湾の人だからこそ、本当に日本らしいものを求めるということでしょうか。


賀来:やはり「台湾にはなくて日本にこそあるもの」がいいんですよ。その意味で言うと、沖縄も一部の台湾人には人気がありますが、食べ物なんかは台湾に似ているものも多いから、私は「日本」という感じがしません(笑)。


台湾人に嬉しい、日本の素晴らしい「季節感」


――「台湾にはなくて日本にこそあるもの」とはどんなものでしょう。


賀来:南国の台湾から見て、日本にある何より素晴らしいものは「季節感」です。やっぱり紅葉と桜なんですよ。そして冬の雪原もいいですね。札幌の雪まつりも大好きです。四季折々のフルーツ狩りも日本ならでは。はっきりと四季を感じられる、これは台湾では体験できないものです。


▲日本の桜は台湾人の心をとらえる


――その時にしかない季節の風景ということですね。でも、桜の時期をピンポイントで狙って旅行に来るのはなかなか難しそうです。


賀来:そうです。昔、桜の見頃は4月の初めだったけれども、どんどん早まって、近年は3月最終週が多い。でもそれを知らずに桜を楽しみに来日してがっかり、なんていうことがよくあります。そういう情報がきちんときめ細やかに発信されていればいいんですが。


台湾にありそうでない何気ない田舎の景色と美しい自然


――台湾も自然が豊かだと思うんですが、日本の自然は台湾の人にとって魅力的なんでしょうか。


賀来:台湾は日本の九州程度の小さい島ですから、日本でしか楽しめない自然の風景はたくさんありますよ。たとえば、富士山はやはり必見です。が、登る必要は全然なくて、遠くから絶景が望める穴場スポットや時期・時間の情報が欲しいですね。


▲遠くから眺めてこその富士山


それから、ありそうで意外にないのが「何もない、素朴なただの田舎」です。ジブリの映画に出てくるような、そこにいるだけでほっとできるような田舎です。澄んだ水が流れる用水路に鯉が泳いでいたり。秋田県青森県など東北の大自然はとても美しいし、萩・津和野などの山陰山陽、瀬戸内海もいい。


▲山に囲まれた内海も、台湾にはない景色


訪れた台湾人誰もが絶賛するのは、屋久島ですね。あそこには完全な自然があります。観光客向けのガイドも多く、中国語ガイドもいます。夜中にウミガメの産卵を観察できるツアーなど、その時、そこでしか体験できないアクティビティもあります。モノを買うのではなく、お金では買えない体験が大事なんです。


▲映画『もののけ姫』の舞台になった屋久島。ジブリ作品は台湾でも人気


日本に来たからこそ楽しめる芸術やレジャーもある


――自然以外で、訪日しなければ楽しめないものはありますか?


賀来:特に東京に数多くある美術館や博物館も「日本ならでは」と言えると思います。その作品はそこでしか見られない訳ですから。日本の美術館・博物館は数が多く、内容が豊富で、管理も行き届いていて、静かです。東京近郊では、箱根の「ポーラ美術館」は皆喜んでいましたね。モネやルノアールなど世界屈指の名画が観賞できる上、芦ノ湖を望む美術館周辺の自然も美しいです。


▲東京から新幹線と直通バスで約1時間半の、富士箱根伊豆国立公園にある「ポーラ美術館」


地図のないミュージアム「チームラボボーダレス」は、言葉がわからなくても幻想的な境界のないアート群と一体化する体験ができる、とても興味深いミュージアムです。


▲人々のための岩に憑依する滝 ©チームラボ


アクティビティとしては、釣り船による海釣りも台湾ではなかなかできないものだと言えます。台湾は海が荒いし、立入禁止の軍港も多いので。客にちゃんと釣りを教えてくれて、初心者でも釣果が得られる釣り船のサービスにハマる台湾人も多いと聞いています。羽田沖や木更津など、東京の近くでも楽しめるところが便利ですね。


海釣りも日本独特のアクティビティ


総合レジャー地として非常に優れている「温泉街」


――台湾の方は日本で非常にアクティブに旅を楽しんでいるんですね。賀来先生がよく行かれる場所はありますか?


賀来:50代以上の家族団らん旅行にいいのは温泉だと思います。草津、別府、信州など日本の名湯として知られる温泉街は、総合レジャー地として非常に優秀で、完成されていると思います。温泉入浴はもちろんのこと、自然、グルメ、ショッピングなど、全てそろっていますから。


▲台湾人の家族旅行にすすめたい温泉街。群馬県・草津温泉は日本三名泉のひとつ


――先生が好きな温泉地はどこですか?


賀来山形県の銀山温泉は素晴らしかったですよ。こぢんまりとしていますが、まさに映画『千と千尋の神隠し』の世界です。


▲テレビドラマ『おしん』の舞台になった銀山温泉。大正末期から昭和初期に建てられた木造多層建築の街並みが、風情をかもしている。賀来氏撮影


それから、本当は教えたくないんですが(笑)、石川県の「よしが浦温泉 ランプの宿」。奥能登最先端の海辺ぎりぎりに建つ宿の館内や客室にはランプが灯され、とても幻想的です。貸し切り露天温泉では日本海の絶景を望めます。ここは一番のお気に入りで、是非また訪れたい場所ですね。


▲パワースポット「聖域の岬」で、450年続く温泉旅館「ランプの宿」。賀来氏撮影


▲一般、露天風呂付、露天風呂付離れの3タイプで13部屋。客室へと続く朱塗りの廊下にもランプが並ぶ。賀来氏撮影


高くてもいい、現地を熟知したきめ細やかな提案で「非日常」を楽しみたい


――温泉以外で最近印象に残ったご旅行はありますか?


賀来河口湖の「星のや富士」でグランピングをしました。抜群に良かったですね。自然を上手く活かした環境であることはもちろん、オプショナルのアクティビティが良かったんです。その地域を深く理解しているからこそ可能な、日本でしか体験できないものを提案してくれていました。


▲河口湖を臨む森のなかでグランピングを楽しめる「星のや富士」。テラスは夜には焚火を囲んでの「焚火BAR」になる。©星のリゾート


――たとえば、どんなものが?


賀来:早朝に河口湖でカヌーに乗るというのがありました。どうして早朝なのかというと、その時間だけは朝もやの中でカヌーを漕げるんですよ。その場所を熟知しているから作れたプランですね。


▲日の出に合わせて始まる「湖上の早朝カヌー」。©星のリゾート


台湾の人たちが、よく知っている日本にわざわざ来るのは「そこでしかできない非日常の体験」を求めているからなんです。そのためなら、金額は問題ではない。より深く、より細やかな情報とサービスがこれからもっと必要とされてくると思います。


日本の伝統や文化をより深く知る・体験するための情報が欲しい


――やはり、台湾の方は日本旅行の「玄人」だなあという感じがします。深く日本を体験したいという意欲を感じます。


賀来:そして「台湾にはない」というのも大きなポイントですね。たとえば、台湾にも日本にもあるけれど全然違うものに「お寺」があります。台湾のお寺は人の生活に密着した存在で、日常の色々なことをお願いしに行く、賑やかな場所なんです。でも、日本のお寺、特に禅の修行をするようなお寺は、台湾にはない。だから、お寺アクティビティも、ハマります。


――お寺のアクティビティですか?


賀来:そうです。座禅とか、写経とか。静かに1つのことをじっと行うという体験は、台湾ではまずできませんからね。あれはまさに「非日常」です。



▲台湾の寺にはない座禅の習慣


――お寺というのは日台の共通文化の1つだと思っていたのですが、そんなに新鮮なものなんですね。


賀来:ですから、東京近郊の観光地としては鎌倉もいいですね。神社やお寺がたくさんあって。都内ならもちろん、靖国神社も。でも、そういった伝統文化についての観光客向けのより詳しい説明が欲しいなと思います。たとえば神社とはどのような場所なのか、もっと深く知ることができたらいいのにと思いますね。


▲鶴岡八幡宮など代表的な寺社をコンパクトにめぐることのできる鎌倉


日本人がイメージする「外国人の観光」より、一歩も二歩も深い台湾人の日本観光


――日本人が考えている外国人向け日本観光は、ずれていたりするのかもしれません。


賀来:日本人が交流や接待としてクラブに連れて行ってくれたりするんですが、台湾人を喜ばせたいなら、台湾にはない高級個室カラオケの方がいいですよ。台湾にも女性がいるお店はあるし、日本の店じゃ女性と言葉が通じませんからね(笑)。今の日本のカラオケには中国語の歌もあるから、自己表現もできるし、相手との交流もむしろ進みますよ。



――確かにそうですね。相手が喜ぶものを提案するためには、相手のことをもっとよく知らなければなりませんね。これからの台湾人の日本観光にはどんなものが求められるとお考えですか?


賀来:今や台湾人の日本観光は、旧来型の「大人数・ご新規様向け定番団体ツアー」だけではなくなっています。数人程度のグループで、一生忘れられない日本旅行の思い出を作るには、よりきめ細やかな情報とサービスが必須です。


3~4人のグループに専属で通訳ガイドを付け、より深く快適な日本の旅を楽しめるようにする。お金では買えない、日本でしかできない体験ができる。そんな旅行へのニーズが高まっているのではないでしょうか。


ですから、間違っても中華料理店へ案内することはやめてください。台湾の味には絶対かないませんから(笑)。


文・人物撮影 松浦優子

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