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非日常の癒やしが得られる高級温泉ホテルとA5和牛なら、予算は度外視です / 【第5回】銭 妙玲

日本と台湾とをつなぐ架け橋として、日本に住み、活躍する各界の台湾人に、「台湾人が喜ぶ日本観光」について語っていただくインタビュー連載。第5回は、20年の歴史を持つ「台湾新聞」の社主であり、さらに不動産事業など幅広く事業を手掛ける銭 妙玲(セン ミョウレイ)さんです。


銭 妙玲 Chien MiaoLin

台湾新聞社社主・実業家

1965年台中市生まれ。1986年に来日し、業務用理美容機器の製造・販売、台湾の最新情報を発信する台湾新聞社を立ち上げる。さらに不動産販売など複数の業種でも起業し、経営に携わる。「台湾新聞」は1999年に創刊され、日本語版と中国語版を組み合わせた形で月1回刊行。定期購読の他、台湾関連企業・機関、店舗等、日本と台湾で配布している。<その他の活動>Beauty Garage Taiwan Inc. 台湾美麗平台股份有限公司 董事長/株式会社シー・エム・エル 代表取締役/株式会社大三元 代表取締役/世界華人工商婦女企管協会日本分会 会長/在日台湾不動產協会 総会(創立)会長/一般社団法人日進人材協会 代表理事

言葉もわからず20代初めに飛び込んだ日本、駆け抜けた30年


――来日したのはいつ、何歳の時ですか?


銭 妙玲(以下銭):1986年、21歳の時です。台湾で海運会社に勤めていて、出張で初めて訪日するまで日本のことはあまり知りませんでした。母が日本在住だったこともあり、その後留学生として再び来日して一から日本語を学び、23歳からは自分で事業を手掛けています。


――そんなに若くして起業されたのですね。


銭:そうですね。最初に創業したのはエステティックサロンで使われる業務用美容機器の販売会社でした。台湾での貿易業の経験を活かして、現在は日本・中国・台湾をフィールドに事業を展開しています。その次に作ったのが台湾新聞社で、もう20年になります。最近ですと、2017年から不動産販売会社も始めました。


人と接するのが好きで、どんどん新しい分野に興味がわいてくる性格なので、ひとつの会社の規模を拡大しようとは思わず、異なる事業内容の小さい会社をいくつも経営するという形になりましたね。


――ものすごいバイタリティですね。現在もとてもお忙しくいらっしゃいますが、日本で旅行はされますか?


銭:ええ、確かに忙しいですが、若い頃には色々なところへ行きました。20代の頃から日本の温泉が大好きなので、全国を訪れています。台湾には、日本のような温泉地や温泉旅館はありませんから。


温泉地の和食グルメで日常をリセットし、疲れを癒やす


――銭さんが日本旅行で求めるものは、温泉での癒やしということでしょうか。


銭:温泉や美しい風景もそうですが、一番の目当ては温泉旅館やホテルで食べられる和食グルメですね。日本へ来るまでは、生魚を使った料理は全部寿司だと思っていたくらい和食のことは知らなかったのですけど、日本の食材はどれも口に合いますし、旅館の和食料理はとても特別感があるじゃないですか。


仕事での疲れをとるのに温泉旅館や温泉ホテルで過ごす時間と料理は最適で、日常から離れてゆっくり休むことができます。ですから、私の会社では社員旅行はいつも高級温泉ホテルです。社員には一流のものを知ってもらいたいという思いがあるので、旅行代理店には毎年高級コースでとお願いしています。


最近ですと、伊豆・稲取温泉の「食べるお宿 浜の湯」はとても良かったですね。ホテルの屋上に作られた露天風呂が本当に気持ち良くて。

▲海に臨む温泉も自慢の、浜の湯のホームページ

その前は、三重県の「志摩観光ホテル」にみんなで行きました。G7伊勢志摩サミット2016の会場になったホテルです。その社員旅行では伊勢神宮にも参拝し、偶然神社の儀式を目にすることができて本当に感動しました。

▲伊勢神宮・外宮(豊受大神宮)の正宮

70代でも高級霜降り和牛、「A5和牛」のブランド力は絶大


――銭さんの周りの台湾の方も、やはりグルメ志向は強いのでしょうか。


銭:私の友人やお客様などは年齢層が高めですから、費用を気にせず上質なものを求める傾向が強いですね。日本に来たらやっぱり高級な牛ステーキが食べたいと。「A5和牛」のブランド力は絶大ですよ。台湾の年配の方、70代くらいの方に多いんですが。


――お年を召した方でもステーキを召し上がるんですか?

銭:ええ、霜降り肉がお好きなご年配は多いですよ。例えば、私がいつも連れて行くのは新宿の鉄板焼「車屋別館」です。1人で2万5000円くらい、平気で召し上がりますね。

▲老いも若きも台湾人にはA5和牛は大人気

――おいしいものなら予算の制限はなしといった感じですね。買い物などもされるんでしょうか。


銭:いえ、買い物ではないですね。日本ではゆったりとした滞在を楽しみたい方が多いです。観光バスを使ったツアーにしても、プレミアム車両を使ったものがあるそうですよ。台湾人向けに特に作った豪華なものがあるとも聞いたことがあります。


――他に、台湾の方に人気の日本のグルメはありますか。


銭:鉄板焼以外ですと、海鮮でしょうか。「かに道楽」とか。あと、「和食 えん」も手頃でいいですね。コース料理だけでなく、生姜焼き定食やサバ定食などの定食も喜ばれます。

和食 えんのホームページ。都内に3店舗をかまえ、いずれも和の空間と窓からの眺めが自慢

ベジタリアン料理「素食」が少ない日本


銭:和牛が大人気な一方で、日本には「素食」の種類が少なくて残念、という話も聞きます。

――「素食」、肉を使わないベジタリアン料理ということですね。おっしゃっているのは仏教徒の方ですか?


銭:いえ、宗教的な理由よりも、歳を取ってきて健康を意識した結果、菜食になる人も多いんですよ、台湾は。最近では若い人の菜食も増えていると聞きます。

ですから台湾にはさまざまなタイプの菜食料理があります。日本にも精進料理があって、それはそれでとてもおいしいのですけど、みんな高いですよね。いわゆる精進料理の他に、菜食者向けの食事のバリエーションがもっと豊富だといいなと思います。


2018年訪日ベジタリアン数(推計)


――和牛をしっかり召し上がる人もいれば、肉を食べない人も一定数いらっしゃるのですね。日本の食材で、台湾の方が苦手なものはありますか?


銭:いえ、ほとんど問題ないと思いますよ。台湾人は元々刺身も食べますし。私は手巻き寿司なら納豆も大丈夫です。


日本旅行の情報源は友人からの口コミが主。言葉が通じるかは気にしない


――日本のおすすめの観光地やお店の情報を尋ねられることは多いのでしょうか。


銭:不動産業の方で日本に投資用物件を購入されたお客様から、おいしいレストランなどを訊かれることは多いです。年齢層も高めですし、ネットで情報収集はしていないんじゃないでしょうか。


――不動産購入をされる方は、物件の確認で日本に来られたついでに旅行をなさるんですか?


銭:いえ、私の会社の場合は購入まで一任していただくことが多いです。お客様からの依頼を受けて物件を探し、こちらで見きわめてお勧めしたものをそのまま購入されるということですね。ですから、お客様が来日されるのは契約後になります。



――そうなんですね。若い人はスマートフォンの翻訳アプリなどを駆使して、個人旅行で日本各地に飛び込んでいくそうなんですが、一定の年齢以上の方ですと、言葉が通じないことへの不安などはありますか?


銭:それはないですね。日本語がわからない方でも、全然気にしていない印象です。


――日本の年配の方では海外旅行先の施設で日本語が通じるかどうかを非常に心配される方が多いように思うんですが、台湾の方にとってはさほど重要なポイントではないのでしょうかね。年齢問わず、勇気があるというか。


銭:(笑)。そうかもしれません。


仕事が趣味の生活、近場での温泉探訪は続けたい


――今後はどんな場所に旅行に行ってみたいですか?


銭:夫も私もそう長く仕事を休めないので、どうしても東京から近い場所にはなってしまいそうですね。でもまあやっぱり、夫婦で温泉めぐりが楽しいです。


――日本の生活で、心身共に疲れてしまったのを癒やす感じでしょうか。


銭:日本での生活が苦しいとかストレスが溜まると感じたことはないですよ。毎日忙しいですが、仕事が趣味のようなところがありますし、日本も日本人も好きです。ただ、日本の若い人が外にあまり目を向けていないなあとは思います。選挙の投票率も台湾とは比較にならないくらい低いでしょう。


私は日本に来てほどなく、「台湾人の歴史をどう残すか」と考えた結果、台湾新聞を始めました。新聞社は利益目的ではなく、台湾の現在を発信したいという熱意で続けている事業です。日本の方にも台湾をもっと理解してもらいたいですね。

台湾新聞公式サイト:http://taiwannews.jp/

文・撮影 松浦優子