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【第5回】特急「指宿のたまて箱」と黒ごまぷりん / 講師 片倉佳史

▲大胆な塗分けが印象的な特急「指宿のたまて箱」。誰もが記念撮影したくなる列車です。
日本を自分の足で楽しみたいと願う旅行者が最も親しみを感じる交通機関と言えば、間違いなく「鉄道」でしょう。実際に日本のリゾートトレインや観光列車の人気は高く、私も問い合わせを受けることが少なくありません。
九州を走る特急「指宿のたまて箱」は、2011年の3月に登場した列車です。鹿児島中央駅と指宿(いぶすき)駅を約1時間で結び、「いぶたま」の愛称で親しまれています。台湾でも日本好きや日本語を話す人々の間では「いぶたま」という呼称が定着してきているようです。
列車は指宿に伝わる竜宮伝説をイメージしており、海側が白、山側が黒という斬新なカラーリングが印象的。また、停車駅で車両のドアが開くと、上から煙を模したミストが吹き出すという演出があり、これは外国人旅行者に好評なようで、ホームでカメラを向ける人が絶えません。
この列車は海に面した座席が回転椅子になっており、車窓の景色を存分に楽しめます。乗車時間は約1時間と短いのですが、鉄道の旅が存分に楽しめると、高い評価を受けています。私が取材に赴いた際も、この列車に乗るために指宿へ行くことにしたという家族連れに出会いました。
この列車では車内限定で、黒ごまぷりんというものが売られています。言うまでもなく、この列車に乗った人だけが味わえる代物です。甘さが控えめで、ほのかに黒胡麻の風味が漂います。プリンは台湾でも人気がありますが、やはり日本ならではの味わいなので、興味を抱く人は少なくありません。

▲車内限定販売の黒ごまぷりん(正式名「いぶたまプリン」税込み430円)。外国人旅行者にも人気がありますが、まだまだ知られざる存在
しかし、台湾の旅行者はこういった情報を持っていないことが多く、気付かないままに終点に着いてしまうというケースが多々見られます。これはあまりにも残念なことです。そこで、台湾のメディア関係者とともに鹿児島を訪れた際、こっそりと黒ごまぷりんの存在をお伝えしたところ、全員が興味を持ち、台湾に戻った後、いくつかの雑誌で紹介されていました。
台湾の人々は基本情報はある程度しっかりと押さえ、その先にある、ちょっぴりディープなネタを欲しがる傾向があると思います。そして、とりわけ、こういった「美味しいネタ」は皆で共有し合うべきものと考えています。
最後に、こういった「小ネタ」というべきものは、SNSなどで情報を発信していくのが効果的です。そして、実際に体験した旅人自身が感想を発信してもらうという流れを作れれば、より効率よく、拡散できると思います。
眠っている小さなネタは、どの土地、どの町にも、まだまだたくさんありそうです。
片倉佳史 Katakura Yoshifumi
武蔵野大学客員教授
台湾在住作家
1969年、神奈川県生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、出版社勤務を経て、’97年に台湾へ渡る。台湾の地理、歴史、建築、文化、鉄道、現地事情などについての執筆・撮影のほか、年に40回ほど講演活動も行なう。『台北・歴史建築探訪~日本が遺した建築遺産を歩く』『古写真が語る台湾 日本統治時代の50年』『旅の指さし会話帳・台湾』ほか著書多数。最新刊の『台湾 旅人地図帳 ―台湾在住作家が手がけた究極の散策ガイド』(片倉佳史・片倉真理著)では、台北・高雄などの主要都市以外にも、まだ日本人には知られていない地方都市や離島など約80ものエリアやスポットを、写真とともにオールカラーで紹介する。
公式ウェブサイト「台湾特捜百貨店」:http://katakura.net/
ツイッターアカウント:https://twitter.com/katakura_nwo