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  • shikiko7

【第3回】受入環境整備の実践〜言語対応〜 / 講師 新津研一

今までの講義では、ショッピングツーリズムに取り組む上での基礎となる考え方を学びました。では、実際に訪日ゲストを受け入れるにあたって、あなたのお店や街ではどのような環境を整備したらいいでしょうか。第3回からは、ショッピングツーリズムの実践方法について解説していきます。今回はそのうち最も重要と言える「言語対応」について説明します。

1.「言語対応」は環境整備の最重要課題


訪日ゲストの困ったことのトップが「言語」


国土交通省観光庁が行った平成29年度のアンケート調査によると、訪日ゲストが旅行中に困ったことは「施設等のスタッフとのコミュニケーションがとれない」が約26%で最多。「多言語表示の少なさ・わかりにくさ」は約22%となっており、多くの訪日ゲストが「言語」に関する不安や不満を抱えていることがわかりました。また、多言語表示で特に困った場所では飲食店が1位、小売業が3位となっています(グラフ1)。


グラフ1:訪問した場所の中で多言語表示・コミュニケーションで困った場所(複数回答)


また、飲食店では「注文」、小売店では「商品を探す」「商品の内容」という、基本的な部分でつまずいていることがわかります。(グラフ2)


グラフ2:多言語表示・コミュニケーションで困った場面(複数回答)


訪日市場への参入のハードルとなる「言語」


言葉が通じないということは、日本を旅行しようとする外国人にとって非常に不便なことです。一方、受け入れる側である日本人からも、「言葉がわからないので、どう接していいかわからない」という声が多く聞かれます。


つまり、外国人とのコミュニケーションに不安があることが、訪日市場への参入を躊躇させる大きなハードルとなっているのです。言語対応の整備は訪日ゲストのためだけではなく、あなたの街やお店が今後ショッピングツーリズムに取り組んでいく上でも、クリアしておきたい課題だと言えます。


2.あなたのお店・街が準備すべきこと


では、「外国語がわからない・話せない」という不安を解消するため、どのような対策を講じたらいいのでしょうか。「コミュニケーション」というと、相手との「会話」がすべてと思いがちです。確かに重要ではありますが、それは手段の一つ。言葉の他にも、身振り手振り、店頭での表示、スマートフォンやタブレットなどのIT技術の活用など、さまざまな方法があります(グラフ3)。

グラフ3:訪日外国人旅行者が必要だと思う多言語表示ツール(単回答)


①接客

コミュニケーションの基本的な心がけとして、「訪日ゲストに気軽に接する」ことが大切です。訪日ゲストからの苦情の一つに、「日本人は私たちを見て逃げた、嫌な顔をした」などがあります、日本人からすると逃げたり拒絶したりしたわけではなく、外国語が苦手なために、来店したゲストと目を合わせなかったり、責任者を呼びに行ったりしただけかもしれません。このような態度が、訪日ゲストにはネガティブな対応に捉えられてしまったのでしょう。大切なのは、訪日ゲストが来店されたら、日本語で「いらっしゃいませ」と言葉をかけ、笑顔を向けることにあります。さらに、外国語での基本的な挨拶やお礼・お詫びといった“ようこそ言葉”を学んで、その方の母国語で歓迎の気持ちを伝えることができれば、よりベストです。


②店頭表示

店頭でよく聞かれる質問や、ゲストがお店を利用する上で伝えたいことは、一定のパターン化することができます。事前に多言語化したポスターやピクトグラム(絵文字)などを用いて表示しておくことで、訪日ゲストの言葉での質問を減らすこともできます。


ピクトグラムの一例


③商品説明

店頭にはたくさんの商品が並んでいるので、それぞれのアイテム名や価格、特徴を説明することは難しいかもしれません。こういった課題に対しては、まず商品カテゴリーが容易に分かるよう商品棚を整備。個々の商品には、数字による価格表記を徹底し、多言語で商品カテゴリー、商品名を表記します。これらを明記したPOPを事前に準備しておけば、言語を使わなくても一定の情報が提供できるでしょう。また、多言語対応の商品情報提供サービスなどを活用するのも一つの方法です。例えば、スマートフォン専用の無料アプリケーション「Mulpi(マルピ)」は、商品のバーコードをスキャンすると、メーカー名、商品名、写真画像、商品カテゴリーを多言語で表示。スマホやタブレット端末等を通して、詳細な商品情報を多言語で提供することができます。

「Mulpi」Android版[リンク] iOS版[リンク


●言語対応のポイント STEP1:日本語と笑顔で訪日ゲストをお出迎え・お見送り STEP2:ようこそ言葉を学んで、外国語の挨拶で歓迎の気持ちを伝える STEP3:ツール活用、事前準備で、より詳しい情報・魅力を伝える

小売店の言語対応について、経済産業省から「小売業の多言語対応ガイドライン」が発表されています。小売業における接客コミュニケーションや店頭表示などについてのノウハウが集約されており、迅速かつ効率的に多言語対応を進めるための手引きとして活用できます。本ガイドラインや、今回の講義で紹介したピクトグラムなどは「小売業の多言語対応」のサイトからダウンロードできます。

構成 井上麻理子


 

新津研一 Niitsu Kenichi

一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会 代表理事・事務局長

株式会社USPジャパン代表取締役社長

観光立国推進協議会委員

日本百貨店協会インバウンド推進委員会アドバイザー

2020年オリンピック・パラリンピック大会に向けた多言語対応協議会委員 小売プロジェクトチーム議長

長野県佐久市生まれ。大学卒業後、伊勢丹(現・三越伊勢丹)入社。売り場経験を経て17年間店舗運営から新規事業開発などを担当。2012年に独立し、USPジャパンを設立。「ショッピングツーリズム」の観点を、インバウンド誘致事業に活かすべく活動している。

ジャパンショッピングツーリズム協会:https://jsto.or.jp/

USPジャパン:https://www.usp.co.jp/


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