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【第4回】受入環境整備の実践〜決済対応〜 / 講師 新津研一
前回の講義から、実際に訪日ゲストを受け入れるにあたっての環境整備について解説しています。今回のテーマは、ショッピングを成立させるための基本である「決済対応」です。決済環境を整えることで、訪日ゲストはあなたのお店でスムーズに買い物を楽しめるようになり、集客効果や売上アップにもつながるでしょう。
日本でのショッピングのハードルとなる「決済」
当然のことですが、私たちがお店で商品やサービスを購入する時、「決済」を行うことでお店との売買取引が成立します。ところが、訪日ゲストはお財布を持っているのに、買い物ができない状態に陥ってしまうことがあります。その多くは、手元に外貨やクレジットカードがあるのに、日本円を持っていなかったり、お店がクレジットカードに対応していなかったりする時です。
「旅行中に困ったこと」のアンケートでも、決済環境の未整備を指摘する訪日ゲストは少なくありません。決済関連の3項目を足すと22%となり、トップです(グラフ1)。
グラフ1:旅行中に困ったこと(複数回答)

お客様が日本人の場合、キャッシュレス化が促進されているとはいえ、国内の小売店などでは現金での決済もまだまだ主流です。そのため、ショッピングにおいて最も基本的なことでありながら、見落としがちなのがキャッシュレス決済環境なのです。
整備を進めるうえで重要なポイントは、あなたのお店や街を訪れるお客様のターゲットに合わせて、その国で最も使われる決済手段を整えることです。訪日ゲストにとって、「当たり前にショッピングが楽しめる環境」を準備しましょう。
環境を整備するポイント
日本でショッピングをするためには、①現金 ②クレジットカード③その他、Suicaやedyといった非接触ICカード、モバイルペイメントなど を用いた決済方法があります。訪日ゲストの場合、③の利用頻度はまだ少ないことから、まずは①現金、②クレジットカードに対応できる環境を整えていきましょう。
①現金の決済対応
訪日ゲストが日本円を入手するためには、「両替所か銀行で両替をする」「ATMから引き出す」という方法があります。海外では繁華街に必ずと言っていいほど民間が営む小規模の両替所をよく見かけます。ところが日本では、両替専用の銀行窓口や両替所は空港や大都市にしかなく、民間の両替所も少ないのが現状です。
では、外貨両替所や外貨両替機が準備できない、近くに両替できる金融機関がない場合はどうすればいいでしょう。そんな時、強い味方になってくれるのがコンビニエンスストアです。セブン-イレブンやファミリーマート(※1)に設置されているATMの多くは、海外発行のクレジットカードやキャッシュカード、デビットカードで日本円を引き出すことができます(※2)。
あなたのお店の近くのATMが外貨引き出しに対応しているか、対応しているATMがどこにあるのか、これを確認しておくだけでも決済環境の整備につながります。
※1ファミリーマートは、ゆうちょ銀行、イーネットのATMに限る ※2VISA、Mastercard、銀聯、JCBなどの対象カードに限る
②クレジットカード決済対応
韓国・イギリス・中国はクレジット、デビッドカードの決済比率が60%以上で、普段からクレジットカードの利用頻度が高い国です。特に外国旅行中はセキュリティ上の不安から、訪日ゲストのクレジットカード利用意向は高い傾向にあります。(グラフ2)。
グラフ2:各国のキャッシュレス決済比率の状況(2016年)

一方、日本は心配なく現金を持ち歩ける治安の良さなどから、日本人のクレジットカードの利用頻度は高くありません。さらに端末設置費用や決済手数料の負担、設置場所のスペースの確保などがハードルとなって、クレジットカード決済を導入しないお店が多いと思われます。
かつてはクレジットカード決済を受け入れる際は、おもてなし事業者が特定のクレジットカード会社などと加盟店契約を結び、数万円のカード決済端末を設置する必要がありました。しかし最近では、訪日ゲストの来店によるニーズの高まり、そして政府によるキャッシュレス決済促進のため決済端末と本体設置が無料になるなど、クレジットカード会社端末の導入も以前に比べてスムーズになっています。この機会に、クレジット決済の整備に踏み切るのも一つの方法です。
台湾人の決済環境について
では、台湾人の決済環境を見てみましょう。インバウンド大学@台湾編集部による、台湾で生活している肌感覚では、キャッシュレス決済ができる場面は少なく感じるそうです。
<台湾でクレジットカードを使えない場所> ・MRT(地下鉄)の切符 ・夜市の屋台 ・小さな食堂 ・露店 ・一部のマッサージ店
中国では屋台でもQRコードが掲げられているというニュースを耳にしていると、台湾ではクレジットカードが使えない場所が意外とあることに驚く方も多いでしょう。
では、台湾人はクレジットカードを持っていないのかというと、そういうわけではありません。クレジットカードの流通数は毎年3~5%ずつ増えており、今年9月には過去最高の4623万枚となりました(グラフ3)。これは1人平均4.03枚を所有していることになります。
グラフ3:直近10年の台湾のクレジットカード流通数

電子マネーでは、「悠遊卡(ヨウヨウカー)」「icash(アイキャッシュ)」「一卡通(iPass、アイパス)といった交通系カードが人気です。日本の「Suica」や「ICOCA」などと同じように、交通機関にも買い物にも使えるという生活に密着した使い方ができることがその理由でしょう。
また、モバイル決済の利用者数も人口の13%(2018年)とはいえ、徐々にその数を増やしています。2018年4月には、モバイル決済の取引額は281.3億元(約1020億6000万円)と、前年の40.1億元(約143億8000万円)から7倍の伸び率です。
台湾ではチャットアプリではLINEがいちばん使われており、ビジネス相手とのやりとりもLINEが主流です。
台湾でよく使われるSNS

それほど広く使われているだけあり、モバイル決済でもLINE Payが一番人気になっています(グラフ4)。
グラフ4:台湾で使われているモバイル決済

Apple Payに肉薄している街口支付(JKOPAY)は、台湾のモバイル決済です。スーパーやコンビニ、ショッピングサイトなど日常的に利用する場所に広く対応しており、今一番勢いがあります。
今は、日本では、海外で登録したモバイル決済アプリは使用できません。ですがLINE PayはVISAと今年6月に戦略的包括のパートナシップを提携し、VISAのネットワークによって世界中でLINE Payでの支払いができるよう準備を始めました。街口支付も、今年の目標として「日本でも街口支付を使用できるようにする」ことを掲げています。
台湾人誘致を考えるなら、当面はクレジットカードで対応、モバイル決済については、引き続き注視が必要です。
店頭表示でわかりやすく、すべてを伝える
決済環境を整えたら、次のステップとして店頭に表示して知らせることも重要です。「クレジットカードが使えます」と店頭に掲示されていれば、訪日ゲストは安心してショッピングを楽しめます。ただし、提示する際には日本人が思いもよらない注意が必要です。訪日ゲストは旅行前に「日本はクレジットカードを使えないお店が多い」と勉強してきています。特定のカードのブランドマークだけを提示していると、「そのカードしか使えない」という誤解を生みかねないのです。
このような誤解を防ぐには、あなたのお店で対応しているVISA、MASTAR、JCBといったブランドマークを全て掲示することが重要です。提示する場所は、店舗の入口とレジ周辺がおすすめです。
構成 井上麻理子
新津研一 Niitsu Kenichi
一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会 代表理事・事務局長
株式会社USPジャパン代表取締役社長
観光立国推進協議会委員
日本百貨店協会インバウンド推進委員会アドバイザー
2020年オリンピック・パラリンピック大会に向けた多言語対応協議会委員 小売プロジェクトチーム議長
長長野県佐久市生まれ。大学卒業後、伊勢丹(現・三越伊勢丹)入社。売り場経験を経て17年間店舗運営から新規事業開発などを担当。2012年に独立し、USPジャパンを設立。「ショッピングツーリズム」の観点を、インバウンド誘致事業に活かすべく活動している。
ジャパンショッピングツーリズム協会:https://jsto.or.jp/
USPジャパン:https://www.usp.co.jp/