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【第1回】成果を導くインバウンドデータとは何か?/ 講師 篠原好孝
いま、外国人観光客を増やしたい自治体や、観光関連の事業に携わる企業にお勤めの皆さんはデータの扱いを日々、意識されていることと思います。でも、そのデータをうまく扱えていますか?この連載では、ビジネスに効果的な「インバウンドデータ」とは何か?そしてどう集め、活用していくのかを解説していきます。
Q.外国人観光客を増やすために、なぜインバウンドデータの活用が必要なのでしょうか?
ここ数年、訪日外国人は増加の一途をたどり、2019年は1~6月の上半期累計だけで16,633,582人(8月、JNTO公表)を日本に迎えました。2020年は通年で4000万人、2030年には6000万人を見込んでいます。
外国人観光客を増やすための重要な手段のひとつに、観光プロモーションがあります。地域の魅力やツアー情報などを紹介する広告を配信していくわけですが、ターゲットを定めずに広告を出しても効率的とはいえません。経費がかさむばかりです。
例えば、中国人観光客。ニュースなどでも取り上げられるように中国人観光客は急増しています。でも、中国人でパスポートを持っている人は10%程度といわれています。持っていない人に広告を展開しても効果は期待できません。
効率的にマーケティングアプローチを図っていくためには、現状を知り、どんな層に広告を配信していけばいいのかを分析することが重要です。一例ですが、この図は、どこの国の人が日本のどこへ行っているのかを表したもの。旅行者層や行動パターンをつかむことができれば、広告を出すターゲットが見えてきます。
宮城県を起点にした外国人観光客の移動分布図

こうしたデータは「インバウンドデータ」と呼ばれています。ここでいうインバウンドデータとは、「個人情報に当たらずに、マーケティング活用を目的とした訪日外国人のデータ」のこと。莫大な情報量をもつビッグデータですから、上手に使えば、旅行者の細かなニーズに応えていくことができます。
Q.日本の自治体や企業はインバウンドデータを活用できていますか?
インバウンドデータを活用する前に、データを使うための準備をしなければなりません。まずは「データ収集」と「データ統合」の作業です。
インバウンドデータの基本概念

現在、日本の各地方自治体や観光業に携わる民間企業などの皆さんはインバウンドデータの重要性に気づき、活用しようとされているでしょう。ただし、残念ながら、有効に活用できているとはいえません。
その原因のひとつに「組織の課題」があげられます。日本でよく見られるケースをひとつ紹介しましょう。ある自治体が、集めたデータに基づき、観光者向けのWEBサイトを立ち上げました。でも、サイトは完成したもののほとんどアクセスはなく、放置状態になってしまった。これはサイトを作成する部署と運営する部署が異なり、連携が取れていないために起こることです。ある部署がWEBサイトを開設したのに、隣の部署はそんなサイトができたことすら知らなかった。そんなことが、実際よくあるのです。
インバウンドデータを活用するには、部署ごとに分散されたデータを一元的に管理し、誰もが有効に活用できるように、組織のシステムを変えていく必要もあります。
Q.インバウンドデータを集めるために、何から始めればいいのでしょうか?
まずは、現在あるデータのあぶり出しです。いま所有しているデータをすべてテーブルの上に広げて、何があって、何がないのかを確認する作業です。
インバウンドデータにはさまざまなジャンルのデータが含まれています。大きく分けると、「オープンデータ」と「クローズドデータ」の2種類です。オープンデータとは、国や官公庁が公表するデータ。観光客数や宿泊客数、消費額などです。オープンデータは一般に公開されているものですから、誰でも自由に活用することができます。
一方、クローズドデータには、訪日履歴データ、パスポート保有推計データ、航空会社予約データ、ホテル予約データなどが含まれます。観光客の動向を詳しく知ることができるため、マーケティングには欠かせないものといえます。ただし、一般には公開されていません。
オープンデータとクローズドデータ

Q.クローズドデータはどのようにして集めるのですか?
スマートフォンのローデータ(端末から直接取得できる分析前のデータ)をベースにします。スマートフォンのデバイスIDには、位置情報データ、利用アプリデータ、閲覧サイトデータ、端末言語データ、レシートデータ、広告配信データなど、さまざまなタグ情報が紐づいています。これらのローデータは個人情報には当たらず、デジタルマーケティングへの活用が認められています。
このローデータを、AIによる機械学習を用いてデータ解析していきます。端末言語データからは国籍や居住地を、利用アプリからは性別や年齢などを推察することができます。データ解析の技術は年々高まり、いまではスマホ所有者の趣味や関心、好みのライフスタイルなども、かなりの精度で割り出すことが可能なのです。
スマートフォンのローデータから割り出せるインバウンドデータ

アジア各地域のスマートフォン保有率は、軒並み日本よりも高いです。東京の保有率は87.4%ですが、香港の99.5%を筆頭に、広州99.4%、台北99%、北京98.9%、ソウル98.9%となっています(博報堂グローバル生活者調査2017年レポート)。クローズドデータの収集にスマートフォンを活用しない手はないといえる状況です。
各国のスマートフォン保有率

現在、弊社Vpon JAPANでは、アジア全域約1億人の旅行者データを所有しています。このデータに基づいて、インバウンドに特化したビッグデータソリューションやビジネスインテリジェンスツール(BIツール:データを視覚化するためのツール)を開発し、日本政府観光局(JNTO)や大阪観光局に提供しています。訪日旅行者層を正確に把握し、効果的なマーケティングアプローチを実施する、そんな役割を担っていきたいと思っています。
収集したデータの「統合」については、次回の授業で解説します。
構成 川岸 徹
篠原好孝 Shinohara Yoshitaka
Vpon JAPAN株式会社 代表取締役社長
1979年、東京都生まれ。学習院大学経済学部経営学科卒業後、LVMH Louis Vuitton Japanにてセールス&マーケティングに従事。2006年、株式会社Simplenaを創業し、代表取締役就任。業務改善コンサルティング、中小企業向けのWEBマーケティング支援事業を展開する。同時にBecome Japanにて事業開発、InMobi Japanにてスマートフォン広告の事業開発を統括。’14年8月にVpon JAPAN株式会社の立ち上げ代表取締役社長に就任。ビッグデータを駆使したインバウンドデジタルマーケティングソリューションを手掛ける。「日本から世界を幸せにするヒト・モノ・コトを創出しニッポンと世界を繋ぐ」べく、インバウンド領域を中心に事業を展開している。また、目白少年サッカークラブコーチとしても活動している。 Vpon JAPAN:https://www.vpon.com/jp/