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【第2回】インバウンドデータを実際に使うために / 講師 篠原好孝
前回は観光関連の事業に携わる皆さまに向けて、インバウンドデータとは何か、集める必要性と集め方について話をしました、でも、データは集めただけではすぐに使うことはできません。今回は集めたデータをどのように使える形にしていくのかをテーマに解説していきたいと思います。
Q.収集したインバウンドデータを、どのように扱えばいいのでしょうか?
観光に携わる皆さんは打ち合わせや会議などで、「観光客数の推移」といった数字が並んだ資料を見せられることが多いでしょう。
「少しずつ増えているな」「夏に訪れる客が多いな」といったことは読み取れても、なぜ増加しているのか、どうして夏が好調なのかなど、理由を探ることはできません。「夏休みシーズンだからだろう」と感覚的に想像するだけです。
旅行者がなぜ来ているのかを探るためには、複数のデータを統合して見ていく必要があります。観光客の性別、国籍、年齢、収入、使用言語、家族構成といった基本的なデータのほか、データ統合ではその人の興味やライフスタイルにも踏み込んでいくことが重要です。
例えば、「ある特定の時期にアニメに高い興味をもつ旅行者が急増した」というデータが得られれば、「おそらくこのアニメイベントを見に来たのだろう」といった具体的な推察が成り立ちます。
さらに詳しくデータを見ていきます。増加した観光客は台湾人が大部分で、中国人にはほとんど変化が見えなかった。この読み解きから、観光客を効率的に増加させるためには、台湾でのイベント告知を増やすといったピンポイントな施策が打てるわけです。
旅行者の旅ナカ時のアプリ利用動向(旅行者インサイト分析より)

▲同時期に同地域を訪れた香港人と台湾人のスマートフォンのアプリ利用動向。ここから、関心の傾向が読みとれる。例えば、台湾人は香港人よりもコミックやゲームに興味が高いことがうかがえる
インバウンドデータの統合は、データサイエンティストやデータアナリストによって行われます。収集した莫大なデータの解析・分析を進め、統合されたデータをビジュアル化していきます。
ビジュアル化は大切なポイントです。数字が羅列された資料ではぴんと来なかった観光客の動線が、瞬時にイメージできるようになります。弊社Vpon JAPANをはじめ、ビッグデータを扱う各企業は、データが一目でわかりやすく、誰でも活用できるようにと、ビジュアル化に力を注いでいます。
ビジュアル化の例:北陸・中部を巡る、ある観光客の動線
Q.ビジュアル化されたデータを活用するメリットは?
日本政府観光局や各自治体の観光協会は、観光客に向けてモデルルートを用意しています。
中部・北陸地方をPRする目的で作られた「昇龍道」もそのひとつで、“ドラゴンルート”の名で外国人観光客に親しまれています。中部地方の愛知県・岐阜県・富山県・石川県を南から北へと縦断するルートを中心に、さらに福井県、長野県、静岡県、三重県、滋賀県も含まれた9県4ルートですが、観光客は本当にこのモデル通りに周遊しているのでしょうか?
昇龍道(ドラゴンルート)と、観光客の実際の動線(右)

▲画像資料提供:ようこそ昇龍道
ビジュアル化されたデータを見ると、オレンジ色のグレートネイチャールートの通りに周る観光客が多いことがわかります。
同時に、このルートには含まれていない飛騨高山へも、かなりの数の人が寄り道していることもつかめます。
皆さんは、このデータをどのように活用しますか?
ルートの見直しを図るのもひとつの案でしょう。飛騨高山を寄り道コースとして売り出すのもいいかもしれません。次々に新しいアイデアが浮かんできます。
こうした“旅ナカ”のデータのほか、“旅マエ”や“旅アト”のデータも重要度は高いといえます。旅マエのデータから、「そもそもどのような経緯で昇龍道を知ったのか」「実際に訪れる決め手になったのは何か」ということが割り出せます。観光プロモーションを打つタイミングや広告を出す媒体選びのポイントになるでしょう。
昇龍道を旅する直前・直後のデータも役に立ちます。
昇龍道への旅行者は、どの空港を利用しているのか?一度の来日で昇龍道のほかにも観光地を訪ねているのか?前後の行動が把握できれば、ビジネスチャンスはぐっと広がります。
旅行者のなかには、日本に来てから具体的な行き先を決めるという人も少なくありません。昇龍道とセットになることが多い観光地に「昇龍道にも足を運んでみては」というような広告を出せば、効果が期待できるはずです。
Q.実際にインバウンドデータの活用は進んでいるのでしょうか?
正直なところ、現在はインバウンドデータの重要性を啓蒙しているフェーズだと感じています。
各自治体の観光担当者に話をすると、興味はもってくれます。ただし、簡単に導入には踏み切れません。それぞれの観光課や観光協会には従来のやり方がありますから、新しいアクションを起こしにくい。データを活用したデジタルマーケティングに予算を割くとなると、いままで使っていた予算を削って割り当てることになるので、反発も予想されます。でも、政府が「2030年に6000万人の訪日外国人」を目標に掲げたいま、組織は変わっていかなければなりません。
自治体の中で、データ活用への取り組みが最も進んでいるのは大阪観光局といえます。京都も観光への意識は高いですが、オーバーツーリズムの問題を抱え、単純に観光客を増やすことが正しい状況ではありません。ほかの自治体とは事情が大きく異なります。
そこで、手本としたいのが大阪観光局です。大阪観光局では、「データ収集」「データ統合」「データ活用」の3段階を踏まえたDMP構築プロジェクトを発足させました。データを活かした具体的な施策も始められています。
大阪観光局DMP構築プロジェクトのデータ活用図解

その一つの事例が、大阪観光コンテンツ[Osaka Night Out]です。
日本人には大阪は「くいだおれの街」「夜遊びの街」というイメージが浸透していますが、外国人観光客にはあまり知られていません。そのため、夜は早めにホテルに入って休んでしまうというケースが多かったのです。でも、そうした観光客に夜の大阪を楽しんでもらえれば、大阪に落ちるお金は増えるはず。そんな発想から生まれたのが[Osaka Night Out]です。
次回は「データ活用」の具体例を紹介していきます。
構成 川岸 徹
篠原好孝 Shinohara Yoshitaka
Vpon JAPAN株式会社 代表取締役社長
1979年、東京都生まれ。学習院大学経済学部経営学科卒業後、LVMH Louis Vuitton Japanにてセールス&マーケティングに従事。2006年、株式会社Simplenaを創業し、代表取締役就任。業務改善コンサルティング、中小企業向けのWEBマーケティング支援事業を展開する。同時にBecome Japanにて事業開発、InMobi Japanにてスマートフォン広告の事業開発を統括。’14年8月にVpon JAPAN株式会社の立ち上げ代表取締役社長に就任。ビッグデータを駆使したインバウンドデジタルマーケティングソリューションを手掛ける。「日本から世界を幸せにするヒト・モノ・コトを創出しニッポンと世界を繋ぐ」べく、インバウンド領域を中心に事業を展開している。また、目白少年サッカークラブコーチとしても活動している。
Vpon JAPAN:https://www.vpon.com/jp/