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【第2回】柔軟性が成否のカギ――岡山県 、ロボットレストラン、築地の戦略 / 講師 田熊力也
前回は来店を促すための企業側のSNS発信をご紹介しましたが、昨年、外国人観光客の訪問者数を大きく伸ばした自治体があります。そのひとつが岡山県です。
岡山県観光課が主導して観光振興に取り組む
Inbound insight(インバウンドインサイト)の「全国都道府県・市区町村訪日滞在者数ラインキング2018」によれば、岡山県の昼夜滞在者数の合計は2017年の90万5894人から102万9497人と14%増加。初の100万人超えと同時に29位から27位に順位を上げています。
岡山県には岡山桃太郎空港があり、同空港にはソウル(大韓航空)、上海(中国東方航空)、香港(香港空港)、台北(タイガーエア台湾)からの国際線が就航しています。
なかでもタイガーエア台湾は2016年に就航して以来便数を増やして、スタート時は週3便だったところから、2018年に週7便のデイリー運航となり、現在、ソウル便、上海便、台湾便が毎日、香港便が週3便となっています。
韓国、中国、香港、台湾との定期便があることは岡山県の強みであり、旅行者を増やした要因になっていますが、その背景にあるのは岡山県観光課の頑張り。

▲1988年に岡山市北区に開港した岡山桃太郎空港。台湾(桃園空港)へはタイガーエア台湾の直行便が、毎日15時台に運航
岡山県では『プレ旅行前』の取り組みとして、外国人向けの観光情報を掲出する「Explore Okayama」という関連サイトを展開しているのですが、 これがなんと、英語、簡体字、繁体字、韓国語、タイ語、フランス語、ドイツ語の7言語で展開するという充実ぶり。
また観光課のFacebookは英語、簡体字、繁体字、広東語、韓国語、タイ語、フランス語が、そして中国人向けにWeiboを用意し、多言語での展開を行っています。
これは日本の数ある観光課のなかでもトップクラスの充実ぶりです。こうした情報発信も、外国人観光客を増やした理由といえます。

▲岡山県観光課のホームページより。関連リンクに、各言語対応の公式Facebookへのリンクが並ぶ
『旅行中』のためのインフラを整備する倉敷
そして『旅行中』に向けた取り組みとして、国内外の観光客に人気の観光スポットである倉敷美観地区を含む倉敷駅南側の市街地で「高梁川流域フリーWi-Fi」が提供されています。
またそのエリアを拡充すべく、「インバウンド向け公衆無線LANの整備経費の補助」も実施し、訪日外国人が快適に楽しめる環境を整えるようにしています。
さらに外国人旅行者との円滑なコミュニケーションを支援するため、昨年度から「岡山県多言語コールセンター」を置き、通訳5言語、翻訳7言語に対応できる仕組みを整えました。
これら施策により、台湾を中心に外国人観光客は右肩上がりで増え続けています。とはいえ海外での“OKAYAMA”の認知度はまだ低く、引き続き認知度を引き上げるため、観光情報サイトやSNSを活用した情報発信などの活動を続ける予定です。
「ロボットレストラン」から見る、外国人が喜ぶこととは?
新宿に「ロボットレストラン」という、ロボットと女性ダンサーによるショーを見せるお店があります。怪しいお店と思われる方もいるかもしれませんが、2012年にオープンした当初は「疲れたビジネスマンに癒やしの時間を……」というコンセプトを掲げていました。
ですが、日本人相手にはスマッシュヒットとはいかなかったようです。
しかしヨーロッパの著名な映画監督がSNSで「こんなところがTOKYOにある」と呟いたことをきっかけに、一気にその存在が海外に知られることになり、現在は完全に外国人旅行者が席を埋めています。
「ロボットレストラン」と日本語で検索しても、ホームページのトップ画面はすべて英語で、英語、中国語、日本語から選べるようになっていますし、ショーも英語で進行していきます。ここからもわかる通り、この店ではターゲットを完全に外国人にシフトしたのです。

▲ロボットレストランのホームページのメイン言語は英語。日本語もあるが、最初には表記されない
ホームページはもちろんのこと、SNSや予約サイトを多言語化し、また海外のツアー会社に積極的にアプローチするなど、海外に対してフラッグを立て続けています。
ショーの構成も同様です。外国人を対象にした内容でいまや大成功しました。成功の理由は、「外国人が喜ぶことを考えた」こと。日本人が考える「外国人が喜びそうなこと」ではなく、外国人が考える「外国人が喜ぶこと」を提供したのです。
いっぽう、「日本人が考える、外国人が喜びそうなこと」でつくられたために失敗した店もあります。
インバウンド観光客向けに日本文化を現代的なアレンジで表現したお店も多数出店しましたが、なかなかうまくいかないのが現実です。「忍者」や「侍」などを安易に演じるだけでは、外国人の心は掴めません。
「寿司」を「SUSHI」に導いた柔軟な思考
そうした日本人の思い込みのもうひとつが、「食」です。
日本人にとって美味しいものは、外国人にとっても美味しいと感じてもらえるはず――そう思っていませんか。2013年、「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されて以来、多くの旅行者にとって、“美味しいものを食べる”ことは大切なコンテンツになりました。
お刺身やお寿司など、生魚が日本人は大好きです。訪日外国人も寿司店を訪れますので、「刺身や寿司の写真には、きっと食いつくだろう」と思うのも無理はありません。そこで外国人集客を狙って刺身の写真をSNSに投稿しても、思ったほどの効果を得られないでしょう。
実は日本人以外の外国人は“生もの”が苦手。刺身を炙った写真を投稿したところ、集客がアップしたという事例もあるほどです。
築地には多くの寿司店がありますが、彼らは海外の人も喜んで食べてもらえるメニューの開発に余念がありません。それはお品書きを見ればわかります。
写真を多用して、どんなものかをわかりやすく提示します。また伝統食である寿司職人だからといって、カリフォルニアロールをバカにしたりもしません。
「食べにくいならば、食べやすくしよう」というもてなしの気持ちのもと、職人の知恵と技術力で見事にアレンジし、世界共通言語SUSHIに昇華させたのです。

▲築地場外市場で販売されている海鮮ちらしと、いなり寿司。透明なカップに入り食べ歩きもしやすい形
“かたくな”ではインバウンド施策は進みません。頭が固くなったと思ったら、築地のお寿司屋さんでちょっとブレイク。きっと柔軟性を持って対応できるようになるはずです。
構成 小泉庸子
田熊力也 Takuma Rikiya
株式会社mov(訪日ラボ)インバウンド研究室 室長
1977年、東京都渋谷区生まれ。海外専門旅行会社で勤務の後、大手家電量販店、ビックカメラに就職。2013年にインバウンド部署を立ち上げ、免税売上を2014年に約35億円、2015年には約400億円と伸ばした。その後、 百貨店や商業施設などのコンサルタントを経て、インバウンド対策の専門ニュースサイト、訪日ラボのインバウンド研究室の室長に就任。日本の観光活性化のために、インバウンド情報のさまざまな形での普及に努める。
訪日ラボ https://honichi.com/