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【第3回】食の多様性の実現がインバウンド事業成功のポイント / 講師 田熊力也

「ビールを切らさないこと」が、試合が行われる都市に厳命されたラグビーワールドカップが幕を閉じました。ただし、オリンピック・パラリンピックを迎える来年の夏はビールだけというわけにはいきません。国を挙げて、“食の多様化”を用意しなくてはいけません。


政府の「食」対策は完全なる後手


第197回国会(2018年10月24日召集、12月10日まで)にて「インバウンドに対応したベジタリアン/ヴィーガン対策に関する質問主意書」が提出されました。


いま日本は政府主導のもと、2020年に訪日旅行者4000万人を掲げ、その実現に向けて歩を進めていますが、そんななかで「『食の面での多様なインバウンド対応』はどうなっているのか」ということが問われました。


また「ベジタリアン、ヴィーガン、ハラルに対応すべく、国や地方自治体はどのような補助金制度を整備しているか」ということも合わせて質問しています。


ベジタリアン、ヴィーガン、ハラルとは

その問いに対する政府の解答を簡単にまとめますと、政府としては旅行者がストレスなく過ごせるよう考えてはいるものの、「いまのところ受け入れに必要な基礎的な知識や実践的なノウハウの取得への支援等の取り組みを行っているところ」であり、「対応飲食店や宿泊施設等についての情報提供に取り組んでいるところ」で、補助金制度については、「政府として把握していない」というものでした。


つまり何もしていないのと変わりません。


そして1年が経った今年11月6日、オリンピック・パラリンピックに向けて、ベジタリアンの訪日外国人を支援する超党派国会議員連盟により設立総会が開催されました。厳格なベジタリアンにも対応の認証制度を構築したいということですが……開会式まで300日を切っていますが、間に合うか心配です。


そんな政府になんぞに任せていられない!とばかりに頑張っているのが企業や個人店です。


崎陽軒が始めた「野菜で作ったお弁当」。シウマイもヴィーガン仕様に


崎陽軒といえば絶大な人気を誇る「シウマイ弁当」が代名詞。1954年から続くロングセラーです。その崎陽軒が今年8月、ヴィーガンフレンドリーの「野菜で作ったお弁当」の販売をスタートしました。

▲ベジタブルシウマイ、ソイミートの甘酢和え、絹厚揚げの野菜あんかけ、カポナータのペンネパスタ、野菜のピクルスに、黒ゴマがトッピングされた白飯による「野菜で作ったお弁当」。税込み1200円。受注販売のみ(3個以上より)

崎陽軒の本社は横浜市にあります。横浜といえば、異国情緒あふれる街並みが人気を集めていますが、欧米諸国の方から見れば、そんな“異国情緒”は“見慣れた風景”と映ることもあるようです。


そんななかで、崎陽軒やシウマイを知ってもらうべく、攻めの一手として講じたのがヴィーガンフレンドリーのお弁当。さらに「日本の駅弁文化を知ってもらいたい」ということも理由のひとつだとか。“OBENTO”が世界共通語になりつつあるいま、“EKIBEN”も仲間入りを目指します。


もちろん「シウマイ」も入っています。肉の食感に近いソイミートを選び、大豆独特の風味を軽減するなど、工夫がたっぷり詰まった一品に仕上がっています。


また「五葷(ごくん)」と呼ばれる野菜(ニンニク、ニラ、ネギなど)を使っていない点も、ベジタリアンに評価されているようです。


仏教の戒律に基づいた食事を精進料理といいますが、そのなかで避けるべき食材に挙げられているのが「五葷」。ニンニク、ネギ、ニラ、ラッキョウなど、香りのきつい野菜がそれにあたります。台湾人の13%がベジタリアンと言われていますが、仏教徒が3割を占めるといわれるなか、五葷への意識も高いのです。


2018年訪日ベジタリアン数(推計)


ムスリム(イスラム教徒)に人気の「日本的食事処」


ムスリムにハラルを提供し、人気を集めているのが2016年創業の大阪・野田阪神にある「日本食レストラン 祭 – MATSURI-」です。メニューには刺身、寿司から、焼きそば、タコ焼き、串カツ、ラーメンなど、日本の人気グルメがズラリ。ただしポイントはメニューに「MUSULIM FRIENDLY SHOP」と書かれていること。


調味料もハラル認証を取得したものを使用し、安心して食事できる環境を整えています。なかでも人気なのが、客自ら焼くことができる体験メニューの「たこ焼き」。こちらのソースは同店のオリジナルで、オーガニックの野菜や果物をベースに、ハラル認証を受けた醤油やみりん風調味料を使い、コクのある味わいに仕上げました。その美味しさから、「MATSURI SAUCE」として店頭販売するまでになったそうです。

▲「MUSULIM FRIENDLY SHOP」の文字が掲げられた、祭のホームページ内にあるメニュー

そして「祭」人気を受けて、昨年、横浜・関内に2号店「串カツ海鮮居酒屋 MINATO(みなと)」がオープンしました。ムスリムはもちろん、ベジタリアン、ヴィーガンに向けたメニューを揃えており、「祭」とは違った味わいが楽しめます。こちらもムスリムの憩いの場となっているようです。


大切なのは、「祭」「MINATO」ともにイスラム教の理解がベースにあること。オープンにあたりムスリムに協力を仰ぎ、ハラルの指導や味へのアドバイスを受けたそうです。また礼拝場所も用意しています。


ちなみに「「MINATO」に関しては独自のホームページやFacebookの用意がありません。情報が少ないと思われるかもしれませんが、そこを口コミが補っているのです。ひとつの宗教の食に真摯に向き合うことで、来店者がどんどん発信してくれる。飲食店にとって最高の成功例といえるでしょう。

どんな飲食店でもできること


日本人は宗教への意識が薄いこともあり、いざ取り組んだとしても「これくらいでいいだろう」と勝手な判断をする傾向にあります。またヴィーガンやベジタリアンにしても、「野菜だけでつくればいい」というわけではありません。


とはいえ、実行したくても食の多様化はハードルが高いのも事実。そこでどんな店でもできる方法があります。それが「どんな食材を使っているか、メニューに書くこと」です。


たとえば焼きそばなら、そば、キャベツ、ニンジン、豚肉と書くだけでOK。あとは食べる側が取捨選択をしてくれます。誰もがそうだと思いますが、宗教や主義関係なく、何が入っているかわからないものを食べようとは思いませんよね。


日本人は経験値からわかることでも、外国人にとって日本の食は未知数。もし、自分のお店を外国人にも来てもらいたいと考えているなら、まず写真付きの英語版メニューを用意すること。そして食材に何を使っているかを明記することです。


あなたの店がベジタリアンやヴィーガン、ムスリムなどに向けたメニューを用意しているなら、Vegewel(ベジウェル)Happy Cow(ハッピーカウ)Halal Gourmet Japan(ハラルグルメジャパン)へ掲載を依頼してみてはいかがでしょう。

▲Vegewelのホームページ。ベジタリアン、ヴィーガンのレストラン検索だけでなく、店舗取材記事やレシピなど読み物も充実。英語対応

審査が必要なものもありますので、依頼したらからといって全て掲出してくれるわけではありません。ですが、だからこそ情報に信用があり、食への信頼性も高く、安心して食事を楽しんでもらえることになります。また掲出となれば、多言語展開もしていますから、世界中に情報発信ができるのもありがたいポイントです。


世界にはさまざまな食文化があり、主義やアレルギーなどで、食事に制限がある人は、それこそ“ゴマン”といます。


かくいう私も食べられないものがあり、食選びには苦心することもしばしばです。だからこそ、訪日外国人には大変な思いをせずに、日本の食をもっと楽しんでもらいたいと思うのです。


構成 小泉庸子


田熊力也 Takuma Rikiya

株式会社mov(訪日ラボ)インバウンド研究室 室長

1977年、東京都渋谷区生まれ。海外専門旅行会社で勤務の後、大手家電量販店、ビックカメラに就職。2013年にインバウンド部署を立ち上げ、免税売上を2014年に約35億円、2015年には約400億円と伸ばした。その後、 百貨店や商業施設などのコンサルタントを経て、インバウンド対策の専門ニュースサイト、訪日ラボのインバウンド研究室の室長に就任。日本の観光活性化のために、インバウンド情報のさまざまな形での普及に努める。

訪日ラボ https://honichi.com/


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